"場"と香りの美学 KITOWA with Luxury Vol.4 GINZA MUSIC BAR「再生されてはじめて意味を持つ ── 音と香り、消えていく感覚」

"場"と香りの美学 KITOWA with Luxury Vol.4 GINZA MUSIC BAR「再生されてはじめて意味を持つ ── 音と香り、消えていく感覚」

香りは、空間に流れる時間の質をそっと整えるもの。KITOWAは、そんな時間の質にそっと寄り添う香りを大切にしてきました。たとえば、ひとつの香りが、空間の温度や記憶の深さを変えていくように。KITOWAは、目に見えない気配の美しさを大切にしながら、現代のライフスタイルに静かな豊かさを届けてきました。

本連載KITOWA with Luxury」では、美意識と感性によって選ばれると香りの関係を探ります。
Vol.4は、銀座7丁目、ブラウンプレイス4Fに佇む"GINZA MUSIC BAR"。
音楽家・大沢伸一さんが描く、深い青の空間と、再生されてはじめて意味を持つ音と香りの物語をお届けします。


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GINZA MUSIC BAR 大沢伸一さん

音楽家、アーティスト、DJ、プロデューサー。世界中のトップアーティストへの大胆なリミックスやプロデュースで知られ、SHINICHI OSAWA、MONDO GROSSO、RHYME SO、どんぐりずとのユニットDONGROSSOなど様々な名義で活動しながら、新たな音の風景を創り出している。

 

銀座7丁目、深い青の扉

エレベーターの扉が開くと、空気がふっと変わる。銀座の喧騒から切り離された4階に、深い青で満たされた小さなサロンが静かに佇んでいる。

心地よい音楽と、イヴ・クライン・ブルーの天井と壁 ──
一般的な"バー"の佇まいとはどこか異なる、深海のような空間だ。



ミュージックバーの誕生 ── 代々木VILLAGEから

── 2014年、銀座にミュージックバーを作ろうと思われた動機を教えてください。

「2011年に代々木ヴィレッジという商業施設のプロデュースに参加したのがきっかけです。その中に、音楽にまつわる空間を作れないか、という相談でした。」

「当時は、CDショップが減り、レコードブームも前夜で、音楽が鳴る場所といえばクラブとライブハウス、旧来のレコードバーぐらいでした。 街から音楽が消えつつあり、危機感がありました。」

── そこで、ミュージックバーというコンセプトを提案されました。

「もっとピュアに、音楽そのものに向き合える場所を作るべきだと感じていました。当時、レコードバーはありましたが、ジャズに特化していたり、クラシックなロックを基本にした古い音楽をメインに聴かせるお店が多かった記憶です。僕はそうではなく、ジャンルに固定されない、新しい音楽から古い音楽まで楽しめる空間を求めていました。」

── "ミュージックバー"という言葉自体、当時はまだなかったのですね。

「はい。"ミュージックバー"という名前で世に出したのは、おそらく代々木VILLAGEが最初だと思います。あれから15年経って、今や言葉が独り歩きしていますが、当時はお客様になかなか真意が伝わらず、なぜDJをやっている自分が、ダンスミュージックだけではないアナログレコードの店を始めたのか、当時はなかなか伝わりづらかったですね。」

銀座という選択 ── パリのサロンを目指して

── 銀座を選ばれた経緯を伺えますか。

「東京には代々木があったので、僕と鳥羽くん(GINZA MUSIC BARの経営パートナー)で京都で物件を探していました。僕の育った街に近く、思春期の多感な時期を過ごした京都、そして鳥羽くんの大好きな街でもあったので、とても自然に京都が最有力候補にあがりました。足繁く物件探しに通いましたが、なかなか良い物件に出会えず途方にくれていた時に、鳥羽くんから"銀座7丁目のブラウンプレイス4階はどうか"とご提案がありました。銀座は、文壇の世界とも近く、多くの俳優たちが通い詰めた文化交流の場所というイメージがありました。音楽を通じて、今の銀座にちょっと変わったものを足したら面白いだろうな、という感覚はありました。」

── お店の設計づくりにあたって、目指された空間とはどんなものでしたか?

「パリのレストランやカフェに行った時に、狭いところで、みんなが膝を突き合わせて、面白い話が交わっていく光景を目にしていました。距離の近さって、意外と大事なのかなと感じ、敢えてあまり大きなスペースをとらない空間を目指しました。」

── 一段下がった奥のソファースペースも所狭しとお客様が楽しまれています。

「たとえばパリの老舗レストランも、人気のあるお店ほど小さな箱に席を詰めていますよね。本当に隣の席との距離が近い。人によっては嫌だと思うんですけれども、その良さもあるかなと。そこは意識したかもしれないですね。」

イヴ・クライン・ブルー ── 深海のような青の世界

── 内装に、フランスの芸術家イヴ・クラインが生み出した"ブルー"を選ばれた理由を教えてください。

「お店の施工の事で細かい検討を重ねていた頃、別の仕事でフランスに行っていました。パリ百貨店ボン・マルシェを歩いていて、歩行距離で言うと3〜4メートルくらいの廊下があって、その廊下の天井や壁がイヴ・クライン・ブルーに塗られていたんです。そこだけ空気が違ったんです。」

── そこから、設計の核に繋がるひらめきがあったのですね。

「はい。"なるほど、これって素材云々、建築資材云々とかじゃなくて、色で統一してしまったら、たとえばウォールナットの無垢がどうのこうのとか、関係なくなっちゃうな"と思ったのです。そのインスピレーションが、結果的に銀座の空間設計の根本的な発想に繋がっていきました。」

── ブルーと茶色の組み合わせには、もっと前からこだわりがあったとも伺いました。

「青と茶色のコンビネーションは、以前からずっと好きでした。90年代後半、僕の好きなエンジニアと仕事をするために、ほぼ毎月のような頻度でニューヨークに通っていました。現地でセッションやレコーディングをするときに、音の確認のために楽器が必要で、レンタル楽器屋さんに頼んで、毎回同じアコースティックギターを借りていたんです。そのギターが入っていたハードケースの内張りが、本当に綺麗なブルーのベルベットでした。」

── ブルーのケース内張りに、茶色のクラシックギターのコンビネーションですね。

「中に収まっているクラシックギターの茶色とのコントラストを見るたびに、"茶色とブルーって相性がいいな"とずっと感じていました。それが今、銀座のカラーリングに繋がっていったんですよね。」

TANNOY ── "長く聴ける音"の正体

── 店の顔のひとつでもあるTANNOY Westminster。スピーカーのこだわりについて教えてください。

「80年代のオーディオブームでは、“高音・中音・低音を分離して鳴らす思想”が強かった。一つのスピーカーの中に、高音(ツイーター)、中音(ミッドレンジ)、低音(ウーファー)が分割して入っています。分割することで、それぞれの音がクリアに聞こえますよ、というものでした。」

── TANNOYの同軸スピーカーは、その対極にありますね。

「はい。TANNOYのような同軸スピーカーは、高音と中低音の発音ポイントがほぼ同じ位置にあるのが特徴です。中心から高音が出て、その周囲で中低音が鳴る。さらに低域はキャビネット全体も含めて自然に広がっていく。すべてが同じ軸上から広がることで、非常に自然な音像になるんです。」

── 50年代から続く設計思想ですね。

「同軸スピーカーは、50年代から続く設計思想なんです。音を過剰に分離せず、一つの塊として自然に鳴らす。その代わり、どこで聴いてもバランスが崩れにくく、長く聴いていても疲れにくいんです。一方で、スリーウェイはそれぞれの帯域が非常にクリアに聴こえる反面、聴くポジションによって印象が変わりやすい。TANNOYは、空間のどこにいても自然に音楽が届く。その感覚に惚れ込んで、ずっと同軸スピーカーにこだわっています。」



選曲 ── 3,000枚のレコードから、今日鳴らす一枚を選ぶ。

── 主役である音楽の選曲について詳しく教えてください。

「まず、お店で選曲をするスタッフを、我々は“ミュージックセレクター”と呼んでいます。もちろんDJ的な要素もあるのですが、人を踊らせるためにミックスしていくというより、その人自身の感覚やストーリーで音楽を選び、空間を作っていく役割なんです。」

── ミュージックセレクターはどのようなお考えで選曲されているのですか?

「その日その日の流れを作っていくことを大切にしています。例えば、全然ジャンルは違うけれど、“LOVE”という歌詞つながりで曲を選んだり、使われている楽器の音色やリズムだったり、さまざまな切り口で曲をつないでいく。そうやって選んでいった結果、自然とひとつのストーリーになっていくのが理想です。本当に感覚的なものなので、明確なルールがあるわけではないです。」

── 大沢さんから何かアドバイスをされていますか?

「はい。セレクターには“音楽で旅をしてほしい”と言っています。例えば、“今日は90年代ヒップホップ”となると、それを知らない人は入りづらくなってしまう。それはどちらかというと、テーマを共有するクラブやDJバー的なアプローチだと思っています。ミュージックバーでは、年代やジャンルを飛び越えて音楽をつないでいくことで、自分が知らなかった音楽に偶然出会える瞬間が生まれる。そういう体験を大事にしたいんです。」



音楽と香り、無形の存在感とその魅力

── KITOWAをホールではリフレッシャーミスト、お化粧室ではハンドソープを使っていただいています。最初に手にとった印象はいかがでしたか?

「もともとKITOWAの、日本の木を使った香りのコンセプトがすごく好きでした。海外のゲストも多いので、何かしら日本らしさを感じてもらえたらいいなと思って置かせてもらっています。実際、海外のお客様から“どこで買えるんですか?”と聞かれることも多いですね。」

── 大沢さんは過去に、音楽と香りの関係についてお話しされていました。

「そうですね。音楽と香りって、すごく近い感覚があると思っています。香りを嗅いだ瞬間や、音楽を聴いた瞬間に、その時の記憶が急に蘇ることがある。そしてどちらも、手に取れないし、目にも見えない。時間とともに消えていくものでもある。そういう意味で、どこか似ている存在なんですよね。KITOWAの香りは、GINZA MUSIC BARの空間にも自然に馴染む感覚がありました。」



音楽を通じて出来た文化交流

── GINZA MUSIC BARには、海外からのお客様が多いですね。

「こちらから大きく発信しているわけではないのですが、人から人へ自然に伝わっていった感覚があります。欧米の音楽好きの方々の間で、“東京に行ったらここには行った方がいい”と言ってくださっているみたいで。そういう積み重ねで、少しずつ認知されていったんだと思います。」

── 印象的なご縁や出会いはありましたか?

「出会いは本当に多いですね。でも一番わかりやすいのは、“これを自分の国や街でもやりたい”と言ってくださる方がすごく多いことです。実際、かなりの頻度でそういう話になりますし、現在進行形で動いているプロジェクトもいくつかあります。」

銀座ミュージックバーの未来

── 5年後、10年後の「GINZA MUSIC BAR」はどんな場であってほしいですか?

「ミュージックバーという文化自体が、これからさらに磨かれていくといいなと思っています。その中で、本当にクオリティの高いものが残っていく状況が理想ですね。僕自身も、その次のフェーズとして何ができるかを少し考えています。」

── そのためには何が必要でしょうか?

「関わる人の情熱と、実際のクオリティがちゃんと伴っていないと成立しないと思っています。ハイエンドな空間でも、コンテンツが追いついていないケースはありますし、結局は当事者がどれだけ本気で向き合っているかが大事なんですよね。その延長として、今うちはオリジナルのスピーカーやターンテーブルの開発にも取り組んでいます。」

── 大沢さんならではの発想ですね。

「うちだけが使うということではなくて、ミュージックバーをやりたい人はもちろん、例えばドーナツ屋さんでも、そういう機材を入れることで空間の質ってかなり変わると思うんです。音楽の聴こえ方ひとつで、その場所の空気まで変わるので。実は、京都に入っているスピーカーは、僕たちのプロトタイプ第一弾なんですよ。」

── 銀座、京都。それぞれのミュージックバーの魅力が高まっていますね。

「そうですね。音楽を作ることにも近いのですが、お店でも“自由”を感じてもらいたいと思っています。こう楽しんでください、ということをこちらから決めるつもりはないので、それぞれの感覚で自然に過ごしてもらえたら嬉しいですね。」


銀座の夜に戻る前、ふと残る音の余韻と、香りの気配。
それは、未来へと続く記憶の入り口だ。

GINZA MUSIC BARは、心地よい音と香りが、静かに重なり合う場所 ── 深い青の世界の中で、訪れた人の記憶にやわらかい余韻を刻んでいく。

aca

GINZA MUSIC BAR

東京都中央区銀座7-8-13 ブラウンプレイス4F
営業時間:19:00~4:00(月~土)、18:00~4:00(日)

Instagram: @ginzamusicbar

Photo_野呂知功 (TRIVAL)
Text & Edit_KITOWA