香りは、空間に流れる時間の質をそっと整えるもの。KITOWAは、そんな時間の質にそっと寄り添う香りを大切にしてきました。たとえば、ひとつの香りが、空間の温度や記憶の深さを変えていくように。KITOWAは、目に見えない“気配”の美しさを大切にしながら、現代のライフスタイルに静かな豊かさを届けてきました。
本連載「KITOWA with Luxury」では、美意識と感性によって選ばれる“場”と香りの関係を探ります。
Vol.1は、白金の “kermistokyo”。旅の感性が息づく静かな時間と、香りが結ぶ余韻をお届けします。

はじまり ― kermistokyo という“場”
白金の路地の奥に、ひっそりと佇む扉。
初めて訪れた人が思わず足を止めるその入口には、静かな気配が宿っている。
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kermistokyo Owner 並木康伸さん

── kermistokyo のスタートについて伺えればと思います。オープンは 2022 年でしたよね?
「はい、3年半ほど前です。旅をしながらポップアップレストランをしていたのですが、 コロナで動けなくなって。その時に、“自分たちの世界観を一度“場所”として形にしてみよう”と思ったのです。」
── 世界観を“固定された場所”で表現する、ということですね。
「そうですね。内装も照明も器も、これまで旅で出会った人たちと一緒につくりました。この古い扉も、建物が持つ空気をそのまま残したかったのです。 “ここにしかない時間”を大事にしたくて。」
── 席に着くと、日常からふっと離れていくような感覚があるのは、その“旅の断片”が空間に息づいているからなのですね。
「ここは、旅で拾ってきた感性をそっと並べたような場所なのです。」
料理 ― 生産者の“声”を聴くキッチン
── kermistokyo の料理には、フレンチの骨格と日本の静けさが混ざる独特の魅力があります。
「テクニックを見せるのではなく、“素材の声”を聴く事が大事であると考えています。同じ食材でも、生産者によって性格が全然違う。一年通してお付き合いして初めて見えてくる個性もあります。
僕らは黒子です。でも黒子の方が、お客さんの大切な時間をより良くできる。
料理はもちろん、その背景にある人たちの想いも、そっと支えたいと考えています。」


旅の中で出会った食材や器の作家。
彼らの物語を“料理という言語”で繋ぐのがkermistokyo のスタイルだ。
空間 ― 光が呼吸し、時間がほどけていく
── この店の光は、柔らかくて温度がありますよね。
「再生ガラスを使ってガラスをつくる、笹川健一さんの照明です。
真っ直ぐすぎる光より、陰影に深さがある光の方が、この空間に合うと思いました。」

温度を帯びた光、静かに落ちる影。
その陰影が、ゲストが日常から離れるための“余白”をつくり出している。
── 海外からのゲストも多いと聞きました。
「そうなんです。旅慣れた方が、この店をどこかで見つけて来てくださいます。
フランスの小さなガイド本に丁寧に紹介されていたり、旅人同士の会話の中で名前が自然と挙がったり。“あの静けさのある店に行ってみて”そんな風に、感じたものが人から人へと静かに渡っていくんです。」
── 空気そのものが伝わっていく感じですね。
「言葉より先に、“雰囲気”が届くのでしょう。だからこそ、ここは旅の延長のような感覚が生まれるのかもしれません。」

香り ― 体験をそっと“結ぶもの”
── 食事を終えてパウダールームに入ったとき、KITOWAの香りがふわっと香りが広がりました。香りに対するお客様の印象はいかがでしょうか?
「香りって、“体験の最後をそっと結ぶもの”だと思っています。料理の余韻が消える前に、静かに寄り添ってくれる存在ですね。」
── 強く主張せず、“空気の気配”として残る感じですね。
「その“控えめさ”が大切です。香りが主張すると、この店の“間”が壊れてしまう。
だから、そっと残るヒノキの気配が、この空間にいちばん合いますね。」
── KITOWAの香りが、その“余白”を支えているのですね。
「はい。使った瞬間の肌触りも好きですね。和でも洋でもない、kermistokyo の空気に自然と馴染む香りだと思います。」

ゲストがつくる夜の空気
── お客様によって、夜の雰囲気が全然違うとおっしゃっていましたね。
「違いますね。すごく賑やかな夜もあれば、しんと静まり返った夜もあります。
カウンターは、ゲストが“その日の空気”をつくる場所ですね。」
── それも、旅のように“一回限りの体験”なのでしょうね。
「そうですね。だからこそ、僕らは黒子でいい。その日の空気をそっと整えるのが我々の役割です。」
夜の終わりに
── 最後に、並木さんとkermistokyo が大切にしていることを教えてください。
「ゲストが“その日の自分を取り戻す場所”であること、ですね。
料理も空間も香りも、その感覚を邪魔しないように設えています。」
── 今日の会話そのままです。静かで、でも芯がある。
「レストランって、実は“静けさ”をつくる仕事なのかもしれません。
日常から少しだけ離れ、また戻っていく。その手助けができればいいなと思っています。」
白金の夜は、料理、空間、香り、そのすべてを静かに束ねながら、訪れた人の記憶にやわらかい余韻を刻んでいく。

Photo_野呂知功 (TRIVAL), Text & Edit_KITOWA