香りは、空間にも、人にも纏う。KITOWAは、日本の自然素材と美意識を根底に、目に見えない“気配”の美しさを大切にしながら、現代のライフスタイルに静かな豊かさを届けてきました。
本連載「KITOWA with Luxury」では、美意識と感性によって選ばれる香りの関係を探ります。
Vol.5は、京都・四条のニッチフレグランスの専門店 LE SILLAGE (ル シヤージュ)。 多くのブランドを扱い、目利きでもあるオーナーの米倉新平さんに、一人ひとりの香りとの出会いを紡ぐ哲学について伺いました。
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LE SILLAGE 米倉新平さん
京都の路面フレグランス専門店「LE SILLAGE」オーナー。「ATELIERS AROMES & PARFUMS PARIS」で調香や香水に関する専門知識を学び、現在は店頭に立ちながら輸入代理店業や空間の香りのディレクションを手がける。
ニッチフレグランスという新潮流の魅力を伝える香水専門店
四条の喧騒から一筋入ると、通りの音がふっと遠のく。 香りと向き合うために設えられた、静かなカウンターがそこにある。
── 香りを学ばれた後、2018年に LE SILLAGE をオープンされました。当時の日本にほとんどなかった「ニッチフレグランスの専門店」という業態を選んだ動機はなんでしょうか?
「元々香水が大好きだったのですが、日本ではまだ香水に対して知識のない方が多く、多くの方が香水を正しく選べていないのではと感じていました。そういった事を解決して、本当にお客様が行きたいお店、真に喜んでもらえて、香水の文化をちゃんと作れるようなお店を徹底して作りたいと考えたのがきっかけでした。」
── 香りに惹かれた原点は、どこにあったのでしょうか?
「きっかけは、母が買ってきてくれた香水でした。私は高校まで野球一筋の少年で、おしゃれや香りには関心が全く無く、自分とは関係の無いものと思っていましたが、香水をつけてみたら、周りから"いい香りがするね”と言われるようになりました。目に見えるところが大事だと思っていた自分にとって、見た目も性格も何も変わっていないのに、目に見えないところが変わるだけで人の印象が変わるんだ、と。これは面白い世界だ、と思ったんです。」
── そのご経験がLE SILLAGEスタイルのベースになっているのですね。
「はい。香水を使ってみたいけどわからない、香水が苦手だ、といった気持ちはとてもよくわかるので、同じような方の力になれるのではないかと考えました。香水のブランドが好きとかおしゃれなものを売りたいというだけではなく、香りを通して人を幸せにする、 元気にする。それに最も適したものがハイクオリティな香りだ、という結論でした。」
── そもそも「ニッチフレグランス」とは何か。米倉さんの言葉で定義していただけますか?
「一般には、最高品質の天然香料を使い、流通を限定し、広告や宣伝に頼らない、コンセプトや芸術性を持ち、マス向けに作らないもの、と定義されます。でも私はもう一段、トレンドを追わずにクオリティを突き詰め、時が経っても芯がブレない、そして自分の中から何かをちゃんと生み出していること、を大事にしている。もっと言えば、アイデンティティがあるかどうかです。“そのブランドだからこそ生まれるものがそこにあるかどうか”が大切と考えています。」
「売らない」接客 ── ”お客様の一本”を見つける仕事
── 好みを聞きながら、時間をかけて一本を選ぶ接客をされています。このスタイルに辿り着いた理由を教えてください。
「私はお店をただ香水を売り買いするための場だけでなく、使いたいと思う香りと出会っていただく場にしたいと考えています。選ぶ時間より、使っている時間のほうがずっと長いですから。その人の生活に入り込んで“選んでよかった”と思っていただくために、じっくり時間をかけて選んでいただきます。」
── どうやってその好みを引き出すのですか?
「香りの系統ごとにご紹介したり、例え話を用いながら説明したり、同じ接客は無いと言えるくらい千差万別です。マニュアルのようなものは無く、お一人ごとにじっくりお話を伺いながら香りをお試しいただきます。」
── 香りは、根拠で示しにくいものでもありますね。
「はい。服やメイクや髪型は、プロであれば何かしらの根拠を元に似合うものを考えることができると思いますが、香りはそういったことができません。全ての根拠はお客様の好みで、その答えはその方自身の中にあります。ですので、香りを選ぶ際は、お話を伺いながらご紹介していかないと本当の好みにたどり着くことができません。」

東山から四条へ ── 古民家に宿す世界観
── 京都東山の小さなスペースからLE SILLAGEは始まりました。東山店開業当初はどんな日々でしたか?
「中心街から離れた人通りもない場所で、開業当初3日間誰も来なかったこともありました。扉から見えるエリア以外が全部滅びたんじゃないかと、何度も外を確認しに行きました。それでもやりがいを感じる楽しい日々でした。時間をかけて香りを選ぶスタイルで始めましたが、このやり方で成立しないなら、別に続けなくてもいいと思っていました。でも私が”こういう店が欲しい”と思ったように、どこかに同じ方がおられるのであれば、その方々のためにベストを尽くしたいなと考えていました。」
── そこから四条に移転を決められました。
「お取り扱いが増えて手狭になり、接客も何組も重なる日が出てくるようになりました。ゆっくり選んでもらいたいのに、お待たせして気を遣わせてしまう事も多くなり、移転を考えました。京都という場所をちゃんと感じられ、かつラグジュアリーな空間であること。それを実現できる場所が見つかり、それが今の四条のお店です。」
── 競合についてはどう考えていますか?
「競合ではありませんが、素晴らしいレストランでの特別な時間や体験はとても参考になります。2〜3時間で、美味しくて、楽しくて、全てが勉強になる。私たちは美味しいものは出せませんが、いい香りと出会ってもらって、香りを試す時間の中でいろんなことを感じていただく。扉を開けてからお帰りになるまでを最高の時間にしたいと考えています。」


目利きが選んだ「日本の香水」 KITOWA
── 多くのブランドを扱う中で、KITOWAの取り扱いを決めてくださいました。最初の印象は?
「正直に申し上げると、当時はKITOWAのことを存じ上げませんでした。お話を伺うまでは、新しくできた日本のブランドの1つかな、といった印象でした。」
── 定期的に売り込みもあるようですね。
「ありがたいことにブランドをご紹介いただく機会もあります。その中で、ご紹介いただいて取扱いを決定した国内ブランドはKITOWAだけです。贔屓や忖度をすることは無く、プロダクトの品質、携わっている人たちの考え方、仕事の方針、熱意。それでしか決めません。」
── ブランドを取り扱う際の、評価の基準を教えてください。
「自信を持ってお客様にご紹介できるもの以外は取扱いしません。価格がお手頃、SNSで話題、海外で人気、日本人ウケが良さそう、そういった理由で取扱することは絶対にありません。それぞれの価格帯でクオリティが素晴らしいものだけを厳選して取扱するようにしています。」
── KITOWAの何がその基準を満たしたのでしょうか?
「一言で表すとブランド全体の品質です。原材料や濃度から感じられる香りの品質、ボトル、パッケージ、ロゴに至るまでのデザインのつくり込み、ブランドに関わる方々の思いなどが作り上げるブランドの完成度の高さに惹かれました。バックグラウンドに大手企業があるかどうかは関係なく、このブランドへの意気込みや情熱、本気度を感じられるかどうかも重要です。ただ売りたいだけとか趣味の延長みたいなものはすぐにバレますし魅力に感じません。香りというプロダクトには、関わっている方々の熱量が明確に出ると思います。KITOWAのプロダクトは細部まで作り込まれていると感じたので、自信を持って薦められると思いました。」
── 海外のニッチフレグランスと並べたときのKITOWAの独自性はどこにありますか?
「和木の香りにこだわっているという独自性ですね。天然の檜の原料をメインに押し出し、日本を感じるような香りは海外の製品の中に見かけることはほとんどありません。和木の天然原料を使用した日本を感じられる香りであり、その上で濃度の濃さや持続力、高級感など世界に通用する品質を目指しているところに独自性があると感じています。」
── 今後、日本のブランドが増えていく中で、KITOWAはどうあるべきと考えますか?
「パッと売れやすいけれど、代替ブランドやもっといいのが出てきたらすぐ入れ替わる、そういったブランドとは対極にあるべきだと思います。時代が変わってもポジションを確立し続け、どのプロダクトにもアイデンティティが感じられ、品質の高いものだけを目指してものづくりを続ける、そんなブランドであり続けていただきたいです。」
世界から訪れる人々と日本の香水
── 海外からのお客様が、KITOWAに触れる瞬間の反応はいかがですか?
「本当に、国や人によります。”地元の森を思い出した”という人もいれば、京都が好きで“古いお寺に行った記憶が蘇った”という方も。日本にいると、日本の美しさが当たり前のものになってしまいがちです。でも、パリの普通の住宅街を見て私たちが綺麗だ、と思うのと同じで、日本の自然や景観に感動した人が、KITOWAの香りを試したときに、そのままの感動を感じてくれている気がします。」
── 日本のお客様は、どうですか?
「より身近な香りや空間の香りとして受け取る方が多いように感じます。檜の香りは独自性を感じさせるし、香水を使い慣れていない人にとっては入りやすくもある。自然の香りを好む方にとっても日常から逸脱しすぎない馴染みがある。それでいてラグジュアリー。両立しそうでしなさそうなところが、KITOWAでは両立している気がします。」
これからの香水文化 これからのLE SILLAGE
── 日本のニッチフレグランスは、これからどこへ向かうと考えていますか?
「習慣や文化としての香水がまだまだという中で、ニッチフレグランスはこれからだと思います。ブランドはもう十分すぎるほど日本に入ってきていますので、あとは使い方や選び方を知り、自分の好みを探す方が、もっと増えてくれたらいいなと思います。ニッチフレグランスはテーマがユニークなものも多いので、興味を持っていただき自由に楽しんでいただければ嬉しいです。」
── その中でKITOWAのような「日本の香水」が果たす役割はなんでしょうか?
「日本を代表するブランドの1つとして、アイデンティティと高品質にこだわったものづくりを続けてほしいです。こだわったものづくりの先にあるのは、信用・信頼・安心感・満足感です。香水だけでなく、すべてのプロダクトで、日本の木の素晴らしさを伝える使命を担っていただきたいです。」
── 最後に、米倉さんご自身のこれからをお聞かせください。
「お客様にその時の最高の一本をご提案できるよう全力を尽くしてきました。今も昔も、ただ売上や店舗数が増えればいいとは全く考えていません。今後も変わらず、正しい形でブランドの認知を広め、香りの楽しみ方をお客様にお伝えしていきます。自分自身も出来る限り現場に立ち続けたいです。LE SILLAGEを通して素晴らしいブランドや香りと出会っていただき、香りの世界を楽しみながらお気に入りの香りと出会っていただくことができれば何より嬉しいです。」
四条の一筋を抜け、京都の静けさへ還る。カウンターで香りと向き合った時間が、感覚の奥に残っている。多くの香りを知り尽くしたプロが、贔屓なしの基準で選び、海外ゲストに「日本の香水」として手渡すブランド。
KITOWAの価値は、その事実の中に照らし出されている。

LE SILLAGE(ル シヤージュ)
〒600-8092 京都市下京区神明町233-2
営業時間:11:00~20:00(不定休)
Instagram: @lesillage_kyoto
Photo_大西悠生, Text & Edit_KITOWA
